「長野における未来の移動 – 持続的なまちづくりのための人・物・移動を考えよう」をテーマに始動した令和6年度NASCワーキンググループ。
今回は、全5日程のうち2024年11月6日に開催された第4回目の様子をお届けします。
事業化に向けて課題も具体化
第3回目までに引き続き、会場は長野市内のまちづくりの拠点ともなっている「R-DEPOT」。チームごと、関係者へのインタビューを進めるなど、事業構想を深めていく中で「最近起きた印象的な出来事や小さな気づき」について、一人ひとりシェアしていきました。
「インタビューを経験する中でコツを掴んできたので実務に活かしたい」
「私たちのチームは、みんなで食事会をして結束を高めました」
など、それぞれプロセスの深まりを感じられる発言が続きました。
続いて、チームごとに状況をまとめた上で全体に共有。「誰の・何を解決する・どんなソリューションか」といった事業アイデアとともにヒアリングや事業化に向けての課題をシェアしていきました。
「この事業アイデアを実現するにあたって、法令をどのようにクリアしていけばいいのかがまだわかっていない」
「オペレーションをどう設計していけばいいのか悩んでいる」
など、事業の実現に向けて課題も具体化している様子がうかがえました。
まずは自分の半径1マイルの社会に目を向ける
その後、インスピレーショントークへ。大手IT企業の中で新事業クリエイティブを担う伊藤淳氏が登壇。所属企業を巻き込みながら、地域で暮らす一個人として実現したいことを叶えていくアプローチについて語りました。
まず伊藤氏が紹介したのは、森林資源の循環活用プログラムを立ち上げ、移住先である埼玉県の横瀬町で自らの趣味でもあったサウナをつくった事例でした。サウナの工法はウッドデザイン賞を受賞。メディアでも取り上げられたほか、商標登録と特許の取得による会社初のライセンスビジネスを展開しているといいます。
では、なぜIT企業が、一見無関係のように思えるサウナを扱い、その上で発展性のある事業を展開できたのか。そのエッセンスを語りました。
「そもそものきっかけは、地域での生活で私自身が感じていた違和感。自宅の周りには、手入れがされず草1本生えていない人工林が広がっていて『これって健全な自然の姿なのだろうか』と思っていました。そして、これを会社のリソースを使って解決できないかと考えたんです。ここで重要なのは、自分のやりたいことを会社の経営方針に重ね合わせて提案することです」
伊藤氏の場合は、所属するIT企業が掲げていた経営方針の中で、解決すべき社会課題として取り上げられていた「地方の活性化」「低・脱炭素化」といった項目にフォーカス。森林資源の循環活用プログラムに伴うサウナ事業は、それらの社会課題解決に寄与するという提案を行ったそうです。
地域の当事者である個人の好きなこと・やりたいことを起点にしながら、会社の経営方針と地域の課題を必然性を持って組み合わせる。そのために必要なのが「センスメイキング」だと伊藤氏は話します。
「明確な答えが存在しないときに『その事業、本当に儲かるの』とか『計数はどうやって管理するの』といった議論から始めるとなかなか動き出すことができません。不確実性の高い状況下では、正確性よりも『相手をいかに納得させて、関係者を動かしていくか』が重要です。そうした共感を得るためには『センスメイキング』という考えが鍵になります。
たとえば、私の事例に関して言うと、『地方移住をした1人の社員が、目の前に広がる森林を前に、その課題と可能性に気づいて、IT企業としてできることは何かを考えて、問題提起と課題解決の提案を行った』というストーリーが存在します。こうした『ナラティブ=物語』が、社内外の共感を生み、推進力をもたらしていくのです。
こうした『センスメイキング』を行う第一歩は、まず自分が生きている半径1マイルの社会に目を向け、より良くしていこうとすること。できるだけ当事者になって、アクションしていきましょう」
その後は、質疑応答へ。参加者から質問が寄せられます。
「個人と会社と地域。それぞれが噛み合わないと、やはりプロジェクトは上手くいかないのでしょうか」
「会社と地域は、それほど変動しない要素。となると、個人がやはり重要になります。これまでのキャリアの中でさまざまな新規事業立ち上げのシーンを観てきましたが、最終的に上手くいっている事業は、やはり個人の思いが強いものでした。やはり忙しくなってくると、次第に1人、2人……と離脱していく。その中で、たとえ1人残っても続けられるメンタリティを持った人がブレークスルーを生み出しています」
踏み込んだ視点で、事業アイデアをブラッシュアップ
お昼休みを挟んだのち、午後は、SUNDRED株式会社・深田によるインプットを経た後、グループごとに事業アイデアのブラッシュアップへ。
深田からは新規事業の組み立てや既存事業の見直しに使用されるフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」を紹介。その後、グループごとその中身を埋めていきます。
▲伊藤氏も各グループを回りながらアドバイスを提供。
各グループが「ビジネスモデルキャンバス」をつくった後で、深田がビジネスモデルの工夫について伝えました。
「視聴者は費用を負担せずに視聴できる民放テレビ放送、本体は廉価に販売して消耗品であるインクカートリッジで儲けるインクジェットプリンター……巷にはマネタイズモデル/ビジネスモデルを工夫している例がいくつもあります。一見実現が難しそうに思える事業アイデアも、マネタイズモデルやビジネスモデルを見直すことで、一気に可能になることもあります」
その後は、グループごとに事業アイデアをブラッシュアップするためのチームディスカッションの時間に。
「もともと○○さんの組織に、私たちの事業アイデアに必要な機能のベースがある。そこに足りない機能を補完していくかたちで事業をつくっていった方がいいのではないか」
「必要な物品やアイテムに関して、ローカルチェーンの会社を巻き込むことができれば、いい事業共創が生まれると思う」
など、各グループではよりビジネスモデルを磨くための議論が活発に行われました。
その議論を踏まえて、3回目のワーキンググループ同様、自由な雰囲気で会議を行う対話方式「ワールドカフェ」に移行。チームごとに現時点の事業構想を紹介するメンバーを決め、ほかのメンバーはテーブルを移動しながら他チームの事業構想を聞いてフィードバックしていきます。
「マッチングビジネスは、登録者の審査が重要になると思いますが、どう考えていますか」
「私がかつて視察に行った地域で、同じ地域課題から立ち上がった事業の事例がありました」
など、より踏み込んだフィードバックが展開されていきました。
最後はクロージングへ。本日の振り返りと今後への意気込みを共有しました。
「『本当の顧客のペインってどこにあるのか』という盲点だった問いを与えられて、事業の根幹を見直すきっかけになりました」
「私たちのチームは一度事業アイデアをまっさらにリセットしたことがあった。そのことを考えると、よくここまで来たと感慨深いです」
7月から始まったプログラムもいよいよ大詰めに。グループごと議論の深まりを感じる第4回のワーキンググループとなりました。ラストとなる第5回目は12月18日を予定。どのような事業アイデアが生まれるかご期待ください。
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