「長野における未来の移動 – 持続的なまちづくりのための人・物・移動を考えよう」をテーマに始動した令和6年度NASCワーキンググループ。
今回は、全5日程のうち2024年9月18日に開催された第3回目の様子をお届けします。
スマートシティとオープンイノベーションの最前線
第1回目、第2回目に引き続き、会場は長野市内でカフェや古道具屋、シェアオフィスなどの機能を併せ持つ複合施設「R-DEPOT」。チームごと課題に向き合いながら事業構想を進めている中、「第2回目終了後から生まれた小さな気づきや発見」について、一人ひとりシェアしていきました。
「事業構想が進む中で課題や難しいことにも直面しつつありますが、その分長野市をより良くしていきたいという思いが強くなっています」
「何時間もチームでディスカッションを重ねる中で、お互いにどんなことを考えているのか・どんなことができるのか、把握できるようになってきていて、日々いいチームに育っています」
など、フェーズの進展とともに前に進んでいる手応えを感じられている様子が伺えました。
その後、インプットトークへ。都内のシンクタンクに在籍しながら、地元・北海道十勝地方における自治体のDXアドバイザーを務める井村圭氏がオンライン上で登壇しました。
十勝地方は、起業家・堀江貴文氏の民間ロケット発射場となっていたり、自動運転バスや無人コンビニの展開を進めたりと、テクノロジーを用いたまちづくりが盛んなエリア。その中で井村氏は官民共創プラットフォーム「project tokachi」の立ち上げや運営に携わっています。今回は「スマートシティ実現における顧客・市民というステークホルダーとそのニーズの収集方法」というテーマで話しました。
「人口が減っていく中、いかに住民サービスの質を低下させないかという背景もあり、スマートシティの取り組みが盛んになっている」と話す井村氏。まずは、スマートシティの概況から語りました。
「まずはデータを共有・統合すること。そこから、そのデータを活用して、新たなビジネスやサービスをつくっていくことが基本です。ただ、これまではデジタルが先行してしまい、実社会とのリンクが少なかった。『こういうテクノロジーがあるから使おう』という、いわゆるプロダクトアウトの発想だったんです。これからは、リアルを優先して、実際のニーズを捉えた『マーケットイン』の発想で取り組んでいくことが求められています」
その後、スマートシティ実現に欠かせない要素であるオープンイノベーションの事例を紹介。そのポイントを解説しました。
「これまでは、目の前にある市場に向けて技術革新を起こせば良かった。でも、今はどこに・どんな市場があるかわからなくなっている。そんなとき、ユーザーや他社と手を組むことによって新たなアイデアや技術を手にし、自社だけでは成しえない新たな市場を開拓していくことが可能になるんです」
今回のインプットトークでは、適宜、質疑応答を挟みながら進行。スマートシティやオープンイノベーションについて、参加者から質問が寄せられました。
「より良い協業のかたちをつくっていくためには、どのようなことが重要なのでしょうか」
そんな問いに対し、井村氏が答えます。
「3つのポイントがあると思います。1つ目が『自分たちが何をしたいのか』をなるべく具体的にすること。その方がマッチングの精度が高まります。2つ目は、自社の担当者に権限を渡すこと。新たな分野の理解を深めたり、社内外の調整を行ったりとある程度負荷がかかるので、その分の裁量を持たせることが必要です。その分、担当者はものすごく成長します。3つ目は、予算を確保すること。オープンイノベーションは、それぞれの組織が資金を出し合って行うケースが多いので、ある程度予算を確保することが持続可能性につながると思います」
人を動かすナラティブの手法を学ぶ
お昼休みを挟んだのち、午後はSUNDRED株式会社・上村によるナラティブコミュニケーションのワークへ。
「ナラティブとは、主人公が『自分』の物語。現在進行形で変化し続け、未来も含めて終わりがないことが特徴で、人を動かす力があります」と上村。
そんなナラティブの構築に向けた整理手法として「MVC(ミッション・ビジョン・コンセプト)」の手法を紹介。自分たちは何のために存在し(=ミッション)、どんな未来を実現し(=ビジョン)、そのために今どんな価値や意味を生み出すのか(=コンセプト)。そのような視点で、自分自身やチームの価値観を言語化していきます。
個人ワークでは、所属する組織について、自分を主語にしてのミッションとビジョンを語り直すことにチャレンジ。そして、グループワークでは、今回のNASCワーキンググループで取り組んでいる事業構想のコンセプトをチームでディスカッションしました。
ワークの最後は、チームで取り組んでいる事業構想のコンセプトを発表。言語化したコンセプトと、どんな人に・どんな価値や意味をもたらすのかを共有しました。
「私たちのコンセプトは『一人だけど独りじゃない』。離れて暮らす高齢の親のために、遠隔で見守るソリューションをつくります」
「私たちのコンセプトは『自宅のようなバス』。車内にソファなどを置きながら居心地がよく、やりたい作業ができる移動手段をつくります」
など、チームで練られた言葉が発表されていきました。
他チームの意見を聞きながら、事業テーマをブラッシュアップ
次のプログラムは、SUNDRED株式会社・深田による事業テーマの精緻化を目指すセッション。
「誰の・どんな課題について取り組むのか。どんな解決策が考えられるのか」。その解像度を高めるため、今回は、ユーザーの置かれた環境やその中で抱く感情‧思考などを理解・共有していく「共感マップ」と、プロジェクトに影響を与える利害関係者を図式化する「ステークホルダー・マッピング」というフレームワークを紹介しました。
「これらのワークは、自分の視点を整理・可視化することだけでなく、チーム内での対話を広げることにも大きな価値があります」
そんな深田の言葉を受けて、チームごとにディスカッションを実施。これから事業テーマを精緻化するために、誰に・どんなインタビューを行うべきかを想定しながら議論を深めることに。
その後、チームごとに議論した内容を発表。
「中心になるステークホルダーは、インバウンド観光客や市民。そうした方に影響を与える存在として、地域の電鉄やバス会社など移動手段を提供している事業者、観光協会・観光案内所、そして観光客がよく足を運ぶコンビニ・商店などをインタビュー対象として想定しました」
などの意見が出されました。
最後は、自由な雰囲気で会議を行う対話方式「ワールドカフェ」へ。チームごとに現時点の事業構想を紹介するメンバーを決め、ほかのメンバーはテーブルを移動しながら他チームの事業構想を聞いてフィードバックしていきます。
「それって既存の交通手段を便利にするんじゃなくて、人が徒歩で集まりやすいところを起点にして新たな交通手段を確立させるってことですか?」
「例えばクルマ移動を考えると、お酒を飲みたい人もターゲットになりますよね」
など、各テーブルで、他チームのメンバーからのフィードバックによって新たな視点がもたらされていきました。
最後のクロージングでも、
「ワールドカフェで他チームのメンバーからもらった意見から、今の事業構想アイデアへの手応えを得られました」
「他チームの状況をうかがえたことは大きな刺激になりました」
といったようにワールドカフェの感想が多く聞かれました。
第3回目も白熱した議論が展開されたNASCワーキンググループ。第4回目は11月6日を予定。どのように事業がブラッシュアップされていくのか、どうぞご期待ください。
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