2024年7月、令和6年度NASCワーキンググループがスタートしました。本年度のテーマは、「長野における未来の移動 – 持続的なまちづくりのための人・物・移動を考えよう」。約半年間組織や立場を超えたメンバーが協働して「移動」という社会課題に取り組みます。
今回は、全5日程のうち2024年7月24日に開催された第1回目の様子をお届けします。
新たな出会いと何かが始まる高揚感に満ちた中で
この日の会場は、長野市の中心部・権堂商店街近くにある複合施設「R-DEPOT」。
古道具屋、カフェ、イベントスペース、シェアオフィス……さまざまな機能と顔を併せ持つ、この施設では、企業の社員や行政の職員のほか、学生やクリエイター、アーティストまで、さまざまなプレイヤーが交わりながら地域のビジネスや文化を紡ぎ出しています。
そんなまちの新たなシーンを創り出している拠点で、令和6年度NASCワーキンググループ第1回目は開催されました。
今回参加したNASCの会員企業は、放送局や建設資材商社、食品メーカーなどさまざま。組織や業種などの垣根を超えて協働しようとするメンバー25社33名が集まりました。
会の冒頭、参加者全員で「所属・ニックネーム・今の率直な気持ち」をシェアするチェックインを実施。
「今は緊張どころかワクワクしかありません!」
「学生時代から長野市の公共交通機関ユーザーでした」
「ここから新しい仲間ができて、新しい仕事が生まれたらと思います」
……
新たな出会いと何かが始まる高揚感に満ちた中、それぞれの思いを共有し合いました。
「楽しい」という内発的動機によって人は変わる
NASCのワーキンググループは、単に座学で学ぶだけではなく、組織の壁を超えた共創による事業化・産業化を見据えているプログラム構成が特徴のひとつ。今回のワーキンググループの目的やロードマップについてSUNDRED株式会社の深田が紹介しました。
「今回みなさんには、長野市における『移動』という社会課題に主体的に関わってもらいます。チームをつくり、全5日間でこの社会課題を解決する事業の構想、仮説検証、持続的に継続できるプロジェクトの提案まで行ってもらいます。ここで検討されたプロジェクトは次年度以降のNASC発実証プロジェクトに繋げていけるといいなと思います」
深田のイントロダクションを終えた後、早速プログラムがスタート。まずは、まちのトータルデザインを支援する一般社団法人 Community Future Design 代表理事であり、総務省地域力創造アドバイザーなども務める澤 尚幸氏によるインプットトークを実施。組織や立場を超えて、まちづくりを行うためのマインドセットについて澤氏は語ります。
「未来を構想する上で、変えられること・変えられないことを考えましょう」
そう語った澤氏は、人口統計などのエビデンスをもとに解説。人口減などの変えられない状況が迫っている中で「人は変われるのか」という命題を提示しました。
「人の考えはそう簡単に変えられません。だから、意図的に変えるしかない。そのためにどうするべきか。それは『楽しい』という内発的動機を育むこと。自分自身が心の底から『楽しい』と感じられることは何なのか。またリーダーとなって世の中を変えていくとき、参加してくれるメンバーも『楽しい』と感じられているか。そういったことを念頭に置くことが重要です」
さらに澤氏曰く、チームで協働していく上では「まとめようとしないこと」が大切だと語りました。
「それぞれのやろうとすることをひとつにまとめると、誰もやりたいことではなくなる。それでは『楽しい』と感じられません。だからこそ、まとめようとするのではなく、それぞれのやりたいことをお互いにサポートし合うかたちがいいのではないかと考えます」
「内発的動機を1人だけで見つけるのは案外難しい。人と協力することが鍵になる」とも語った澤氏。プログラムの途中では、3人1組でお互いの話を聴き・語り合うミニワークショップも実施。
その後、澤氏が支援に携わった自治体の事例紹介を踏まえながら、成功する自治体における課題解決のあり方について紹介しました。
「まずは個人の『やりたい』という“私益”から始まり、仲間を集めコミュニティの“共益”へと進化させていく。しかし、一定のレベルに達したら行政の支援・関与が特に必要な“公益”の領域に入ります。そのとき行政がファシリテーターとしての機能を果たしながら、コミュニティによる課題解決が自然となされる状態が理想です」
共創によって社会を変えていく「インタープレナー」とは
昼食を挟み、午後は「チームビルディング&インタープレナーシップ」のプログラムへ。SUNDRED株式会社の上村のファシリテーションのもと、まずはチームごと2つのグループワークに挑みました。
行ったのは、チームで協働することを目的とした「ペーパータワー」のワークと、互いを知ることを目的とした「手中の鳥」&「クレイジーキルト」のワーク。
「ペーパータワー」では、チームで協働しながら制限時間内にA4の紙だけを使ってできるだけ高いタワーを作ります。
いかに高さを出すか。チームごと作戦を練り、工夫を凝らしながら、タワーの製作に挑みました。
また、「手中の鳥」&「クレイジーキルト」のワークでは、それぞれの好きなことや得意なこと、趣味など自分自身について付箋に絵で表現。その後、それぞれの付箋を組み合わせてなるべく“ぶっ飛んだ”アイデアを発想することにチャレンジしました。
「山でも、海外でも、月でも。目で見た世界に行けるソリューションをつくります!」
「宇宙空間から地上にあるアイテムを掴むスペースクレーンゲームを提案します!」
など、チームごとにたくさんのユニークなアイデアが生まれました。
これらのグループワークの後、上村がインタープレナーという概念を紹介。
「インタープレナーとは、社会起点の目的思考で、組織や世代、分野などを越境して価値共創できる個人のこと。2つのワークの中には、このエッセンスが含まれています」
「ペーパータワー」のワークでは、目標に向けた協働や役割分担、相手の意見への傾聴、「手中の鳥」&「クレイジーキルト」のワークでは、お互いの個性の理解、掛け合わせる共創、共感による合意形成の要素が含まれていたと上村は話します。
大いに盛り上がったワークの意義を知った参加者は、真剣なまなざしで耳を傾けました。
「インタープレナーは、誰しもがなれます。キーワードは『社会的・産業的』思考。社会的な目的を達成するために、『組織の私』ではなく『社会人の私』を主語として、組織を活用しながらより良い未来を共につくるという思考で動くことが大切です。ここからみんなで新産業を生み出していきましょう」
新産業をつくるために必要な思考の型を学ぶ
最後のプログラムは、SUNDRED株式会社深田による「事業開発ステップ/イノベーション・事業領域と提供価値」。産官学や個社の立場の垣根を超えたオープンイノベーションを進めるにあたって、前提となる社会事情のインプットを行いました。
「消費者や商品、製造プロセス、流通プロセスが変化しています。ビジネスの前提が変わっていく中、これまでの考え方が成り立たなくなっている。だからこそ、UNLEARNが大切です」
そう語った深田は、「既存事業の意思決定プロセスからの脱却」を提案。既存事業で採用されることの多いPDCAサイクルのデメリットを考えるワークを挟みながら、「OODAループ」など新規事業・新産業共創・社会課題解決のための意思決定の手法を提示していきました。
その上で、長野市の移動における課題や、その解決になる事業アイデアを書き出すワークを実施しました。
第1回目を終えた参加者からは「組織や立場を超えた人との意見交換を行うことができて、幅広い視点を得ることができた」「このワーキンググループをきっかけに、地域や組織、個人など何かしらのレイヤーで活動が活発化されたらいいと思う」といった声が聞かれました。
次回のワーキンググループ第2回目は、2024年8月28日(水)実施予定。今回出た事業アイデアをさらに深化させていきます。
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