NASCでは、長野市内で事業活動に取り組む人々が立場を超えて集い、地域イノベーションについてフラットに話せるコミュニティをつくるため、会員資格を問わずに参加できるオープンな勉強会を毎年行っています。
今回は10月16日に行われた会の様子をお届けします。
社会性の高いテーマに、ビジネスで向き合う
今回の勉強会のテーマは「地域の課題をビジネスで解決する方法」。社会性の高いテーマに取り組む際に、いかに収益を担保しながら継続性のある事業をつくることができるか、という点は大きな課題になります。そのような課題にどのように向き合うべきか。そのヒントを得るため、前半はソーシャルビジネスのトップランナーによるインスピレーショントーク、後半は参加者同士での学びや気づきを得る対話という構成で展開しました。
▲今回の勉強会のバナー画像。
一般的なWeb会議ツールは、手軽に複数人が参加できる長所もありますが、誰かが話しているときは他の人は聞き手にならないといけないのが欠点です。しかし、「miro」を使えば、ただ話を聞くだけでなく、ボード上に考えをアウトプットしながら、自らの思考を深めたり、他の参加者の考えに触れられたりすることができます。
複雑な社会課題を解決するためには、会社の垣根を超えた事業共創が欠かせません。そのとき、さまざまな事業体が対話をしながら意思決定を行っていくことが鍵になります。今回は、そうしたシチュエーションも想定しながら、それぞれが学びや気づきを得られる時間を過ごしていくことに。
▲miro上の操作に慣れるため、自己紹介も実施。
社会課題や地域課題を解決するソーシャルビジネスの現場を知る
イントロダクションの後は、インスピレーショントークに。今回は、社会問題・地域課題をビジネスで解決するソーシャルビジネスを世界中で展開している株式会社ボーダレスジャパン代表・田口一成氏が登壇しました。
「社会問題を解決するために起業する人のことを、私たちは『社会起業家』と呼んでいます。この『社会起業家』の数が増えるということは、それだけ解決される社会問題の数が増えるということ。だからこそ、ボーダレスジャパンでは、企業経営に必要な資金やノウハウ、コミュニティを獲得できるようになる仕組みを開発しながら、ソーシャルビジネスが次々に誕生するエコシステムをつくることに注力してきました。現在は世界13ヶ国で50の事業を展開しています」
そう語る、田口氏。まずは、1社単体ではなく、複数の会社が集う意義について話しました。
「社会における“課題”を“希望”へと転換する。それがボーダレスジャパンが目指すソーシャルビジネスの活動。そのために1社単体では、できることには限界があるし、希望につながるようなインパクトが生まれません。だからこそ、多くの人が幸せである世界をつくりたいという思いを持つ人たちが集まって、互いに支え合い、高め合う仕組みづくりが重要なんです。私たちは、その仕組みを、Companyの語源である“カンパニオ”と名付け、運用しています」
トークの中では、具体的な事例もピックアップ。たとえば、大阪豊中市では、対等な賃金を得られにくい障がい者雇用の分野で、行政と協力しながら障がい者の方々が誇りを持って働けるようなきのこ栽培の事業「ONE TOYONAKA」を立ち上げています。地域の方と協力しながらキノコ収穫後の廃菌床を活用したカブトムシ育成や、堆肥への応用によって、循環型農業を実現させました。
社会起業家に求められるスタンス
社会起業に取り組む上では「ソーシャルコンセプトが大切」だと語る田口氏。
「ボーダレスジャパンでは、どんなマーケットを選び、どんなビジネスモデルをつくるかといったこと以前に、どんなことがあれば、この地域や社会は良くなるのだろうかといったソーシャルコンセプトを大切にしています。このソーシャルコンセプトを起点に、制約条件を踏まえながら、ビジネスモデルへと落とし込んでいく。そうして、結果的にソーシャルチェンジが起こるような事業をつくるんです」
さらに、田口氏からは、「社会課題・地域課題の解決について『儲からない』を言い訳にしない」との言葉も聞かれました。
「ボーダレスジャパンでは、すべての事業において月次ベースで損益計算書とキャッシュフロー計算書をチェックしながら数字を追いかけています。銀行からも『ここまで緻密に数字を管理している企業は見たことがない』と言われるほど。赤字になったことも、補助金を頼りにしたこともありません」
田口さんのトーク中も、miro上には参加者からさまざまな意見や質問が挙がりました。インスピレーショントークの最後には、その中から一部を抜粋した質疑応答を実施することに。
「事業の撤退基準に関しては、どのように考えているのか」
そんな質問に対して、田口さんが答えます。
「撤退基準って、明確なラインがありそうでない。キャッシュが尽きかけて、もう辞めるしかない、にっちもさっちも行かないような状況でも、あの手この手でなんとかしてきた起業家が最終的には成功しています」
「この質問って、実は事業活動ではなく、事業モデルの話なのではないかと考えています。たとえば、勝ち筋が見えなかったら事業モデルはどんどん変えてもいい。でも、事業活動自体は決してストップさせないことが大切。先ほどのハーブティの事例だと、母乳に困っている女性という切り口が上手くいかなかったら、次はたとえば安眠用のハーブティーなどにピボットすればいい。ただ、とにかく事業活動は辞めない。
そもそも起業家が成長するポイントって、瀬戸際の土壇場でしかないんですよね。経営者って、何度も自分の至らなさを痛感しながら脱皮を繰り返していく生き物ですから」
身近な社会課題・地域課題について、対話を通じて自分ごと化する
インスピレーショントークの後は、ブレイクアウトルームに分かれてディスカッションに移行。「気になっている社会課題や解決に向かってほしい困りごとは何か」
「それが解決すると、あなたやあなたの周りはどう幸せになるか」
「そうした社会課題や困りごとを解決できるための情報やアドバイス、アクションは何か」といった3つの項目をもとに、グループごと議論を重ねました。
10分ほどのディスカッションを経て、全体でそれぞれのグループの内容を共有することに。各グループの代表者から、生まれた意見が共有されていきました。
「私たちのグループでは、好きなところで自由に遊べる環境などがない、不登校が増えているといった子どもに関する課題が挙げられました」
「課題解決のために、まずは敷居を下げてライトなプロジェクトをつくっていくのが糸口になるのではないかと考えました」
各グループ、ユニークな切り口で社会課題を解決するアイデアをシェアしていったところで勉強会は終了。miroには、いくつもの付箋が貼られ、活発な対話がなされたことがわかりました。
NASCでは、会員企業のみなさまはもちろん、一般の方々にも学びを深められる開いた場を設けていく予定です。興味のある方は、ぜひNASCの活動をチェックしてみてください。
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